人気の切手である「市川海老蔵」は1956年に発行されたプレミア切手です。
当時の切手趣味週間シリーズの一つとして発行されました。
「市川海老蔵」は、「市川蝦蔵」「市川えび蔵」というような 表記のし方もされています。別名で「海老蔵にらみ」切手とも呼ばれているようです。
発行部数は550万枚。他の人気切手である「見返り美人」の150万枚や「月に雁」の200万枚に比べて、かなり多い枚数が発行されました。
図柄には謎の浮世絵師であった東洲斎写楽が描いた「市川蝦蔵」が採用されました。このかなり「にらみ」のきいた迫力ある図案に圧倒されます。
同じ時代の人気浮世絵師である、喜多川歌麿の作品「ビードロを吹く娘」と並んで、日本国内のみならず海外でも人気のある切手です。
「市川海老蔵」の描かれた時代の歴史的背景
「市川海老蔵」は寛政6年(1794年)5月に河原崎座で上演された演目「恋女房染分手綱」の中で、市川蝦蔵が演じた「竹村定之進」を描いた作品です。
描かれた時は市川團十郎が6代目に名を譲った後の「市川蝦蔵」であり、その後の11代目からが「市川海老蔵」というように名前の表記のし方が変わってきています。
写楽の役者絵としては、かなり独自の奇抜なスタイルで、役者を美しく描くというよりも役者の個性や欠点をデフォルメして描くという描き方でした。
そして、この描き方は、江戸時代の当時の人たちからはあまり親しみがわかず、好まれていなかったために、人気があまりなかったようです。
その当時の江戸の人たちからは、同じ頃に活躍していた浮世絵師である歌川豊国が描いた役者絵に人気が集まりました。
その理由は、豊国の役者絵が役者を美しく描いたものだからです。
その写楽の浮世絵が注目され始めた頃は、20世紀初頭の日本では大正時代になった頃だそうです。
注目されたきっかけとなった出来事は、ドイツの美術研究家ユリウス・ケルトがレンブラント、ルーベンとともに三大肖像画家として、写楽を褒めたたえたことです。
そのことがあってから、東洲斎写楽の名が世界中に広まり、人気が出始めました。
写楽の作品は、全て蔦屋重三郎という版元から出版されたものです。
その証拠に、写楽の挿絵の左下に蔦屋の印(富士の蔦)が見えます。
写楽の浮世絵の発表時期は、4期に分かれており、第1期から4期に移るにつれ、版画の品質が落ちて人気がなくなってきています。
そのため、写楽の代表作といわれているのは、第一期に描かれた作品がほとんどです。
写楽の生涯は、数々の謎に包まれており、日本にある写楽の作品は約100点程度であり、具体的にどんな人物だったのか、生没年などの詳細が全くわかってはいません。
江戸の当時では人気がなかったため、全く売れなかった写楽の絵なのですが、今では海外でかなり人気が高いため、数千万円の値段が付けられているそうです。
写楽の作品では、「大谷鬼次の奴江戸兵衛」が最も有名で、こちらも切手になっています。
謎の浮世絵師「東洲斎写楽」は一体どんな人物?
東洲斎写楽は、江戸時代の文化文政期の謎に包まれた浮世絵師と言われ、活躍した期間はわずか10か月ほどの短い期間でした。
その後、忽然と姿を消して行方がわからなくなってしまいましたが、そのわずかな活動期間中に描いた145点のうちの、特に上半身のみを描いた大首絵の28点が写楽の代表作です。
東洲斎写楽の正体は明らかではありませんが、「東洲斎写楽 = 斎藤十郎兵衛」とする説が最も有力な説とされています。
他の有力な候補者としては、浮世絵師である初代歌川豊国、歌舞伎堂艶鏡、葛飾北斎、喜多川歌麿、司馬江漢、谷文晁、円山応挙、歌舞伎役者の中村此蔵、戯作家であった山東京伝、十辺舎一九、俳人の谷素外などの多くの人物が挙げられてきました。
その中でも斎藤十郎兵衛であるという説がなぜ有力なのかというと、実名を伏せなければならなかった人物は、上に挙げた中には彼の他にいなかったからです。
江戸時代の当時、歌舞伎役者達は、「かわらもの」といわれて、身分が卑しい職業とされてきました。
斎藤十郎兵衛は下級武士であったということですが、武士の身分であったため、役者の浮世絵を描く仕事を副業ですることは身分を落とすことになりました。その上に、斎藤十郎兵衛は、端役の端役の役者でもあったと言われています。
当時、武士は観客として歌舞伎を観るのはいいのですが、舞台に上がることはいけないとされていたため、副業をしていることが世間にバレたら困るということだったようです。
そして、さらに彼は武士としての本業があったからこそ、わずか10か月間という短い間で、絵師を辞められたのではないかといわれています。
現在の「市川海老蔵」切手の価値は?
「市川海老蔵」の切手の価値は、発行枚数が550枚とかなり多い枚数が出回っているにも関わらず、とても人気が高いのです。
もちろん、同じ切手であってもバラかシートの状態か、あるいは、美品か、黄ばみやシミがあるものかどうかなどの状態によっても、買取価格がだいぶ違ってきます。
バラで持っている場合では、200円程度です。
シートの状態で持っている場合、だと2500円以上の値段が付きます。
これは、この「市川海老蔵」の切手が今でも日本国内だけでなく、むしろ海外で人気のある、プレミア切手であるためです。
そのため、今でもオークションなどで高い値段で売買されています。
しかし、平成に入り、切手ブームが収束したたため、今以上の価値になることは大変難しく、また発行部数も他のプレミア切手よりも多いこともあって、今後の価値は少しずつ下がってくると考えられます。